山口克也*
上野 勲**
*山口総合政策研究所
*エコシステム経済研究所
A Proposal on a World
Fossil Resources Managing Organization as a Post-Kyoto Protocol
Co-authors: Katsuya
Yamaguchi and Isao Ueno
EXECUTIVE SUMMARY
In this paper we present a scenario for reducing global GHG
emissions by 50% from the present levels. The backcasting technique, which
Robinson J.B. advocated in energy demand research, was employed for this
scenario.
After examining the causes of the problems with the Kyoto
Protocol and the current proposals on a Post-Kyoto regime, we have arrived at
the conclusion that none of the proposals deal with the question of the financial
difficulties that would confront the various parties concerned, particularly fossil
resources producing countries and developing countries, as a result of their reduced
consumption. This neglect of such financial consequences retards, in our
opinion, the development of agreement amongst the countries, which would
contribute to effective GHG emissions mitigation and better control of atmospheric
temperature.
We have worked out a scenario through the backcasting
technique, incorporating conditions, which would attract global consensus and
thus sustain the successful operation of the international organization that we
propose, while observing the principles of the UNFCCC and the prerequisites
referred to in the IPCC reports.
This scenario shows that improved use of fossil resources
would be imperative for drastic cutbacks of GHG emissions and seeks complete
agreement amongst the countries concerned to establish an international public
organization to manage such global efforts. In this paper we have addressed the
questions of the principles and the functions of this international managing
organization.
Its principles must embrace humanity, equity, economy,
common rules, penetration, efficiency and fund arrangement, and its functions
must include monopolized sale of fossil resources around the world, price
control of fossil resources at levels high enough to curb their otherwise
ever-growing demand and subsidization for energy conversion with funds
generated by the operation of the organization.
Lastly, we have compared its functions with those of the Kyoto regime and the
Post-Kyoto proposals currently available and concluded that our proposal should
be worth serious attention.
KEY WORDS
Global warming, Post-Kyoto Protocol, Back-casting, Fund and
Public corporation for fossil resources
ポスト京都議定書における世界化石資源管理機構の提案
要 旨
本稿は,バックキャスティング手法を取り入れ,UNFCCCなどで示されている将来体制についての予測条件と,いくつかの外部条件を前提として,2050年の世界のGHG排出量を現状より50%削減する排出削減シナリオを現在に遡って構築した.
その結果,GHG排出の大幅な削減のためには,化石資源使用の高度なコントロールが必要であり,この化石資源使用に対する高度なコントロールについて世界各国が合意するためには,世界の化石資源の専売を行いながら,化石資源価格の引き上げと,そこから生まれる資金を新たな基金としてエネルギー転換等を行う専売機構の設立が必要であるという結論に達し,同機構の原則及び機能を明らかにした.
キーワード
地球温暖化,ポスト京都議定書,バックキャスティング手法,基金,化石資源専売制度
1.はじめに
本研究では,2050年において世界のGHG排出量を現状より50%削減することを可能にするポスト京都議定書体制の構築を目標とする.
本稿ではまず,京都メカニズムの中心的役割を担う国際排出権取引制度の問題点,ひいては京都議定書そのものの問題点を現在の日本の状況を中心に概説する.そして,このような状況が,産油国等化石資源の既得権を持つ諸国,これから化石エネルギーに依存した経済発展を目指す国々と,地球環境の維持に重大な関心と責任を負う先進諸国の利害の対立を解消しないまま,世界の地球温暖化対策の第一歩が踏みだされたところから生じていることを述べる.また,排出権取引と対置して議論される国際炭素税その他のこれまでに提案されたポスト京都議定書のシステムについても批判的に概観する.
上述を踏まえ,本研究では,バックキャスティング手法の考え方を取り入れ,世界各国が地球温暖化をめぐる利害対立を最小化し,協力して温暖化をコントロールできた姿を想定し,その姿を実現するシナリオと,シナリオを可能にする外生的要因を導出する.そのシナリオを描くために必要不可欠と思われる要素が世界化石資源管理機構である.
同機構は,化石資源の所有権を適切な対価をもって既得権者から譲り受け,化石資源の専売を行うことにより,CO2の排出量を化石資源価格によりコントロールする.同時に専売による利益を通して,エネルギー転換,気候変動への適応,同機構の化石資源購入等に必要な資金を作り出し,各国に供与する.
これにより,気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の最終目的である,「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼさない水準で大気中のGHG濃度を安定化させ,現在及び将来の気候の保護を実現する」ための手法は,CO2排出削減量の各国への割り当てではなく,価格コントロールによる化石資源の使用量の各国・各経済主体への適切な配分と,エネルギー転換等への資金の供給となり,体制の求心力は飛躍的に高まる.そして,各国が対立するのではなく,協力してエネルギー・経済システムを改革していく前提が生まれる.
次に,外生的要因として同機構を可能にする経済的,技術的,倫理的な前提を述べる.さらに,これまでに提唱された将来システムと本研究が提案するシステム(本提案)をさまざまな観点から比較し,本提案の合理性を明らかにする.
2.国際排出権取引制度など現在の体制・既存の提案の抱える問題
2.1 国際排出権取引制度の長所
国際排出権取引制度とは,温室効果ガスの総排出量が目標の水準になることを所与(制約)とし,その配分を権利(許容枠)として各国に割り当て,それらが人為的に創設された市場で売買されることを許容する制度である.各国は限界費用の小さい順に対策を実施し,初期配分を越える部分は,限界費用が排出権の市場価格を上回れば排出権を購入し,反対に限界費用が排出権価格を下回り初期配分に余裕がある国は排出権の売却と国内対策を組み合わせることにより,双方が市場取引を通じて相互に利益を得ることができる.この市場メカニズムの働きによって,排出権価格はすべての国において限界費用が等しくなる点で決まる.
国際排出権取引制度は,上述のシステムであるため,①世界全体でどの程度排出量削減ができるか分り易い②グローバルな総費用は最小になり,③国内の政策に自由度を持たせられる,というメリットがあることから,京都議定書に採用された.そして,先進国及び市場経済移行国に対してGHG排出量の上限が設定され,排出権取引などの市場原理を活用した京都メカニズムが導入された.しかしながら,京都議定書発効後の世界は,排出権取引の理論上の三つのメリットを享受していない.
まず,①に関して,京都議定書体制は,発展途上国が排出量削減義務を負わない上,アメリカと,オーストラリアの離脱により,世界の合計削減量が全く予測できない状況にある.今後,排出削減義務を負わない国が存在する場合も予測不能となる.
次に,②に関して,限界費用が排出権価格よりも低い対策がすべて行われ,限界費用が排出権価格よりも高くなる場合に,すべての国において排出権の購入が行われるならば,排出量削減に係る総費用が最小になるという結論が導かれる.しかし現実の排出権価格は乱高下し,排出権が将来どの程度の価格になるか参加者に全く予想ができないため,各国は排出権価格を前提とする合理的な投資判断を行うことが不可能となる.排出権価格を高く予想した場合は,コストの高い対策が行われ,逆に排出権価格を低く予測した場合は必要な投資が行われず,結果的に排出削減量の合計が目標値に達しないケースが考えられる.
③に関して,様々な方法を用いて排出量削減を柔軟に実行できることはメリットであるが,国内で排出削減方法を最初から検討し,国民や産業界のコンセンサスを形成した上で,排出量削減を実行しなくてはならない点で各国の負担は大きくなる.政権交代の可能な民主主義国家において,排出量削減を強行に実行しようとする政権は,他の政党に政権を奪われる可能性があり,政権政党の実行力にも限界がある.
日本政府は,2005年に京都議定書目標達成計画を決定した.これは,各主体に削減量を何らかの形で義務付け,これらの政策で削減できる数値を積み上げるという,コマンド・アンド・コントロール型の手法である.しかし,この計画は列挙された様々な措置の実現性が担保されていない,産業部門の削減を自主的措置に任せている,国内排出権取引や国内炭素税の導入に踏み込んでいない等の批判があり,また従来手法の延長でもあるため,大幅な排出量削減が期待できないという意見もある.
他方,国内排出権取引を導入しようとする場合,キャップ・アンド・トレード法の場合,「誰にどれだけのキャップをかぶせるのか?」という大問題を解決しなければならない.また,上流比例還元型を導入する場合,下流の使用量を削減する方法が確立しておらず,化石燃料の輸入量がそれまでに入手した排出権を越えた時,本当に輸入ストップできるかという問題,また反対に排出権不足を招かない様に,際限なく海外から排出権を買い入れるしかなくなるという問題が生じる.国内炭素税に関して,海外への産業移転(炭素リーケージ)の問題があることに加えて,税収の使途や,石油・石炭税,ガソリン税などとの関係が整理されていないため,炭素税導入に関する国内の合意ができていない.すなわち,日本は国際排出権取引制度を採用したことにより,国内政策に自由度が与えられているにも拘らず,効果的なGHG排出量削減を行うことができないでいる.
このようにみると,京都議定書体制において,国際排出権取引制度の長所は有効に機能していないと考えられる.
2.2 国際排出権取引制度の短所
従来から指摘されていた国際排出権取引制度を導入する際の問題点は,京都議定書を巡る交渉とその後もたらされた結果の中で明確化されてきた.
(i) 最大の欠点は, 制度に参加する諸国の総負担費用が削減義務の初期配分に大きく依存するため,削減目標値の合意が難しいことである.
京都議定書における交渉の過程では「公平で合理的な」目標値の算出方法を見出すべく,日本をはじめ,ノルウェー,アイスランド,オーストラリア,ブラジル,フランス,スイス等が,人口・一人当たり排出量・GDP当り排出量・一人当たりGDP・人口増加見込みなどを考慮要素及び参入要素とした提案を行ったが,結果として,何が「公平で合理的」な基準であるかについて,交渉で合意に至らなかった.
結局,京都議定書の交渉では削減目標値を政治的に決定せざるを得なかったために,多くのひずみが京都議定書に生じた.すなわち,GHG排出削減義務を負うことに断固反対している発展途上国の参加を得るため,発展途上国に対して排出量削減義務が課されなかった.さらに,ロシアの参加を得るため,ロシアの削減目標が緩く設定され,それがホットエアー(正味削減を生じない部分)を生み,そこで先進国はホットエアーを買い集めることで,正味削減量を減らすことができるようになった.これらの原因により,世界の合計排出量の削減が難しくなった.
(ii) 国際排出権取引の下で,これまで大量のGHGを排出してきた国は排出削減に伴い排出権という一種の既得権を取得し,一方厳しいGHG排出削減努力をしてきた国はメリットがないという不満が生じる.
(iii) 目標達成が難しい国は枠組みから外れてしまうという懸念が表明されていたが,現実にアメリカ,オーストラリアが京都議定書の枠組みから離脱した.
(iv) 排出権の価値が見通せず,実際の経済活動や化石燃料の消費に影響を与えることが難しいとされていた.現在,世界銀行はCDMから発生する2010年の二酸化炭素1トンのクレジット価格を最低1ドルから最高33ドルと予想しており,このような状況下で,投資の判断に排出権価格を織り込むことは難しいと思われる.
(v) 短期的な判断を生み,技術開発やエネルギー関連のインフラ変更の促進に対して不適当とされてきた.
(vi) 手続きが煩雑になる.
以上の国際排出権取引に関する短所は,排出削減目標が厳しくなるにつれ,ますます顕在化してくる.削減目標が50%に近づいた時,同制度の下で,各国がこの制度から外れることを防ぎ,国別の削減目標値を受け入れさせることは,不可能に近いと考えられる.従って,国際排出権取引制度をポスト京都議定書の基本に据えることは無理であるが,これは現在の京都議定書の下で各国が削減目標を達成する義務を果たすべきであることと矛盾しない.
2.3 京都議定書の経験をどう受け止めるか
京都議定書は,アメリカやオーストラリア,発展途上国,産油国などが協力的でない中,日本やEUを中心とした一部先進諸国の強い理念とリーダーシップにより,ぎりぎりの政治交渉と妥協の産物として作成されたものである.その構造は,排出権取引やCDMなどの経済的メリットを活用して協力的でない諸国を繋ぎ止めたものにすぎない(図1参照). 発展途上国は,1991年の気候変動枠組条約の作成交渉の開始当初から団結して,温暖化における先進国の歴史的責任を問い,途上国のGHG削減義務を回避する主張を続けた.この風向きを変えるために設けたのがCDMという「ニンジン」である.あるいはロシアの協力を得るために,「ホットエアー」を設定せざるを得なかった.いずれも先進国に,途上国への投資あるいは排出権の購入という負担をもたらす.日本は,議長国として地球温暖化防止のための協力体制を歴史上初めて築くという目的のために,このような京都議定書を敢えて受け入れたのである.
ポスト京都議定書の策定に際し,京都議定書のシステム的な欠点を明確に認識した上で,それを克服した新体制を設計しなくてはならない.このシステム的な欠陥をもたらしたのが,発展途上国,産油国,石炭産出国などの国益の主張を基幹システム内に取り込めなかったためであるから,新システムは,これら諸国の要求を正面から受けとめたものでなくてはならない.また,先進諸国の産業界からも,厳しいGHG排出量削減政策に対して痛烈な批判があるため,その要求に応えなくてはならない.そこで,これらの要求を受けとめた上で,GHG排出量削減のために全世界的な協力体制を構築することは可能だろうか.
本研究では,試案として,「世界化石資源管理機構」を提案する.同提案の説明の前に,国際排出権取引制度以外にこれまで議論されてきた他の手法について概観する.
2.4 国際炭素税及びその他の提案
国際炭素税は,従来,全世界で税率が一律の炭素税(一律炭素税)を念頭に議論されてきた.一律炭素税によると,各経済主体の合理的な活動を仮定した場合,所与の税率(納税額)より小さい限界費用で可能な対策が実施され,その結果,グローバルな総費用は最小になる.そして税率は試行錯誤を繰り返して,目標とする抑制水準を達成するように調整される.
しかしながら,この一律炭素税は,限界費用の小さいオプションが多い国に負担が重くなるため,途上国に対して経済的負担が大きくなり,途上国の反対に遭うのは必至であるとして,一律炭素税を導入する場合,ある国際機関が炭素税(の一部分)を徴収し,別の観点から合意された公平性の基準に沿ってその再配分を行うという補完的措置と組み合わせなくてはならないとされてきた.そこで,途上国に対して過度な負担とならず,その上,国家間で差異のある炭素税として帰属炭素税についても提案がなされているが,各国別の税率の決定,あるいは炭素リーケージの問題が生じる.
国際炭素税は,グローバルな規模での費用効果的な対応,国際的な大規模プロジェクトへの税収の還流など,理論上は多くのメリットがあるが,発展途上国の反対など現実的な困難性により,課税対象,徴税方法,税収の使途などについて具体的な議論がされていない状況である.
ポスト京都議定書のその他の代替案として,①GDPあたりのエネルギー使用量あるいは炭素排出量の効率改善を目標とする“効率目標”,②各国が温暖化政策・措置の導入を約束する手法である“政策・技術導入のコミットメント(PAMs)”,③排出権取引を採用しつつ,排出権価格に上限を設け,排出権価格が上限価格に達すると政府により当該価格で追加的な排出権が無制限に発行され,排出削減主体はその価格以上の単位あたり削減コストの負担を免れる“ハイブリッド政策”,④各国が温暖化対策実施の約束をし,一定期間経過後に国際機関や他国による審査を受ける“Pledge and review”などがある.本研究では,これらの代替案について,その短所・長所を詳細に述べることはないが,これらの提案に共通している点は,国際的な合意に至るのは比較的容易そうに見えているが,環境効果が不確実なことである.この理由で,2050年に1990年のGHG排出量より50%削減という厳しい目標を掲げた場合に,これらの手法を単独で選択するのは難しくなる.
3.バックキャスティング手法による将来体制の分析
3.1 分析評価手法について:フォアキャスティングとバックキャスティング
本研究では,バックキャスティング手法を用い,ポスト京都議定書の体制(新体制)を導き出し,構築することを試みた.
バックキャスティング(backcasting)とは,フォアキャスティング(forecasting: 予測・見通し)に対するアンチテーゼである.フォアキャスティングは,過去から現在までのトレンドから実現可能性の高い未来を導き出す手法である.計量経済学的なモデリングが可能である一方,トレンドに制約されざるを得ないという性質がある.このため,トレンドの想定外の不確実性を完全に考慮することは不可能である.さらに重大な欠点として,フォアキャスティングは予想された将来が「望ましくない」もので,トレンドを「ブレーク(突破)」することが求められている状況下でその価値が薄まる点がある.
このような指摘を受け,新しくバックキャスティングという手法が考案された.表1に,両手法の相違点を比較して示す.
表1(小)
バックキャスティングの目的は,一定の「望ましい将来像」に至るに必要な政策を特定することにある.現在までのトレンドに過度に拘束されることなく,将来像に至るため
に必要な道筋や条件を未来から現在に向けての推論を繰り返して探り出す手法である.バックキャスティング手法で得られた結果が広く受け入れられるものとなるためには,望ましい将来像が多くの人に共有されているものであること,推論が正しく行なわれていること,そして推論から得られた道筋や条件が,現在から未来に向けて無理なくシナリオ化できることが必要である.
バックキャスティング手法はエネルギー分野でJ.B. Robinsonが最初に提唱した.
表2に,Robinsonによって提案された同手法の流れを示す.
表2(小) バックキャスティング手法の流れ(例)
3.2 研究目的の設定
本研究の最終目的は,気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)における京都議定書の目的が,気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼさない水準で大気中のGHG濃度を安定化させ,現在及び将来の気候を保護する点にあることを鑑み,ポスト京都議定書の基本となるシステム,特にその原則と機能を構想・構築することにある.まず,本研究の対象とする空間的範囲は先進国,化石資源保有国,発展途上国を含む世界であり,時間的範囲は2013年から2050年までを想定する.ここで,次の事例より,時間的範囲を2050年と設定した.①EU各国は,現在,気温上昇を産業革命以前と比較して2℃以内に抑制することを目標に,国家レベルで具体的に中長期(2050年)におけるGHGの大幅削減計画(60~80%削減)を検討し始めている.②2007年5月,安倍首相は世界全体のGHG排出量を2050年までに現状比で半減させるという長期目標を提案した.この発表の直後に開催されたG8ドイツサミットでもこの提案は評価され,「2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む,EU・カナダ・日本の決定を真剣に検討する」という文言で成果文書に反映された.
これら2点より世界全体で「2050年に現状より50%削減」が一つの大きなターゲットになると考えられる.
次に,シナリオの数と種類について,①GHGの将来目標濃度が複数ある場合,②前提とする排出シナリオに関するIPCC特別報告書(SRES)でGHG排出参照シナリオのグループ数が複数ある場合,そして,③目標へ辿り着くシナリオが複数ある場合,これらの場合における必要な数だけ構築しなければならない.しかしながら,SRESにおけるA1Tシナリオを基本とした『世界化石燃料管理機構』の構築による化石資源の専売制の実現により,現在表面化している課題を解消でき,その結果,シナリオの数は唯一となる.その根拠とともに『世界化石燃料管理機構』の設立について論じる.
3.3 将来目標の設定と予測条件
本研究における将来目標は世界のGHG排出量の50%削減と2050年におけるGHG濃度の安定化である.しかしながら,近年の想定外に拡大する温暖化による被害で,GHG削減要請はさらに高まる可能性がある.そこで,長期的な不確実性を前提に,必要なGHG削減が実現できる柔軟な体制を構想しなければならない.
また,UNFCCCにおいては,気候安定化に関する目標を,第二条において「生態系が気候変化に自然に適応し,食料の生産が脅かされず,かつ,経済開発が持続可能な態様で進行できる」ために十分な時間的枠組みの中で達成されるべきとしている.さらにUNFCCCはこのプロセスを導くために,公平性,共通でありながら差異のある責任,予防,費用効率性のある措置,持続可能な開発をする権利,そして,開放的な国際経済システムのサポートという原則を定めている.
IPCC地球温暖化第三次レポート第三作業部会報告は,これらの原則を集約し,三つの予測条件,費用効率性・公平性・地球規模の持続可能性と社会学習を提示している.
ここではこのIPCCの集約された原則が何を意味するか,若干の考察を加えておく.
まず,「費用の効率性」を条件とするところから,2050年の世界は資本主義を前提にすると考えられる.また,UNFCCCの原則に,開放的な国際経済システムのサポートがあるため,自由貿易体制が維持されていると考える.また,費用効率性が良であることは,社会に対する経済的評価が高いことになり,物質文明を含め,人類がこれまでに創り上げてきた諸文化は可能な限り否定されず,活発な人間活動が存在し,人間性が開花していることを前提とする.
第二の「公平性」については,どのような体制を前提にするかにより,どのような公平の概念を導入するかが異なってくる.ここでは,GHG排出削減に関するルールが世界の人々に対して平等に適用されており,世界の総ての国の人々が制度・ルールが公平であると捉えることが条件であると考える.
第三の「地球規模の持続可能性」という条件について,人類の経済活動と地球の物質循環及び生態系システムとの不整合状態が改善され,循環型社会の形成と経済の持続的発展の両立が2050年までに達成できることが条件と考える.
3.4 GHG排出量削減体制の現状
京都議定書体制の問題点は,第2章で前述した通りである.
2005年12月にカナダ・モントリオールで開かれた「気候変動枠組み条約第11回締結国会議」(COP11)で,京都議定書を離脱している米国と温室効果ガスの排出削減義務のない途上国が,ポスト京都議定書に関する「長期的協力に関する対話(モントリオール行動計画)」を行うことに合意した.また,京都議定書の見直しのための作業が始まるとともに,京都議定書に基づいた2013年以降の削減目標の検討が,先進国と市場経済移行国の間で始まるなど,GHG排出削減のための体制に関する交渉が重層的に行われる状況となっている.
しかし,京都議定書の枠組みから脱退しAPPを立ち上げたアメリカ・オーストラリア,これからも化石燃料に依存した経済成長を目指そうとする発展途上国,資源保有国等の諸国と,自然エネルギーへの転換等の国内政策・措置によって,大幅なGHG排出量削減に向けて第一歩を踏み出したEUとの温度差はあまりにも大きい.その上,ロシアや日本が,どのような立場をとるかも不透明である.従って上記会議では,各国が国益の主張を繰り返しており,全世界が協調できる地球温暖化対策はまだその姿を現していない.その様な状況下,原油価格が大幅に上昇したが,化石燃料の需要は減少せず,逆にGHG排出削減にマイナスの石炭の利用が増加しつつある.
第三次レポート第三作業部会報告は,部門別緩和技術オプションの中で,主なGHG排出削減の潜在能力を一定のコスト範囲において各部門別に予測している.しかしながら,これらの潜在能力が現実に発揮されているとは言えない.同報告書は,潜在能力が発揮されない理由として,①金融機関が資金を貸さない,②環境に対する害のような特定の影響(外部性)に対する市場価格の欠落,③ネットワークの外部性,④誤ったインセンティブ,⑤既得権益,⑥効果的な規制機関がない,⑦現在の生活様式を変えるのが難しい,⑧温暖化の被害に関する不確実性等を挙げているが,それらの障壁が実際に存在し,技術の導入を妨げているように見受けられる.
3.5 シナリオの前提となる外部条件
予測条件から新体制を推論する際,あるいはシナリオ分析を行なう際に,下記条件を前提にする必要がある.
(i) 各当事者が経済人として行動すること.
各当事者を経済人(ホモ・エコノミクス)と捉える.化石資源の利用制限は高度に政治的な問題であるが,政治的な考察を含めると現実的にフォアキャスティングもバックキャスティングも不可能になるため近代経済学的な前提を置かざるをえない.例えば,国やさまざまな経済主体は,経済的な利益があれば,エネルギー転換や産業転換,あるいは化石資源の国際機関への売却を行う.具体的にどのような経済主体がどのように行動することを前提とするかは,シナリオが構築された時点でさらに考察する.
(ii) 新エネルギー・新素材産業の発展.
化石資源の価格が上昇し,既存産業からの圧力が取り払われ,資金が供給された時,化石資源からのエネルギー,素材供給の減少を代替する新エネルギー,素材産業が成長する.
(iii) 地球温暖化の被害に対する認識の高まり.
世界中で,地球温暖化を放置する危険性とコストが,GHG排出をコントロールするために発生する費用と同じ程度に具体的に認識されるようになり,排出量削減に関する厳しい手段の導入に世論が反発しない.
これら3外部条件は,シナリオが構築された段階で,再度,各条件について,さらに深く議論し,シナリオに適合する表現とする.
3.6 遡及的シナリオ分析から導かれるシステムの原則
バックキャスティングにおけるシナリオ分析では,分析目的が,解決しなくてはならない社会問題への対応であるところから,将来目的を前提として,その目的に至るシナリオを推論する.すなわち未来から現在に論理的に遡るシナリオ分析を行なう.今後この分析手法を遡及的シナリオ分析(狭義のバックキャスティング)と呼ぶ.
ここから本章で明らかにした将来目標,予測条件及び外部条件などを前提に,遡及的シナリオ分析を行い,2050年において導入されているシステムの原則を導く.
(i) 2050年においては,GHG排出量が1990年から50%削減されているという将来目標,費用効率性を前提とするという予測条件,及び現在の生活様式を変えることが難しいという第三作業部会の指摘の3つを総合するとGHG排出シナリオはSRESシナリオのA1Tを選択せざるを得ない.
GHGが長期に渡って大幅に減少するSRESの排出シナリオはB1とA1Tである.このうちB1においては経済構造がサービスおよび情報経済に向かって急速に変化し,物質志向は減少し,クリーンで省資源の技術が導入されることを前提とする.しかし,生活様式の変化の困難性と,経済構造全体の変化にはエネルギー転換よりもより多くの費用がかかることを鑑みると,このB1は選択できず,選択できるSRESシナリオはA1Tしか存在しない.
A1のシナリオは高度経済成長が続き,世界人口が21世紀半ばにピークに達した後に減少し,新技術や高効率化技術が急速に導入される未来世界を描いている.主要な基本テーマは地域間格差の縮小,能力強化(キャパシティービルディング)および文化・社会交流の進展で,1人当り所得の地域間格差は大幅に縮小するというものである.
A1シナリオファミリーは,エネルギーシステムにおける技術革新の選択肢の異なる三つのグループに分かれ,A1Tは非化石エネルギー源重視のシナリオである.ただし,このA1Tシナリオにおいても2050年におけるCO2排出量は約12GtCと1990年の1.7倍であるため,構築すべきシナリオにおけるエネルギー転換のタイミングおよびスピードはA1Tの想定より大幅にアップさせなくてはならない.
このように,新体制は,化石エネルギーを非化石エネルギーに転換させることを原則とする.
(ii) 費用効率性の要求から,化石資源は,同じGHG排出量から算出される付加価値がもっとも高くなる生産活動に対して供給されるべきである.これを現実的に行うためには,GHG排出量が目標値に達するまで,化石資源価格を上昇させることになる.価格上昇がおこることによって,第三部会報告で要求されている環境被害等の外部コストの内部化の問題が解決する.そして,自由貿易が行われているという条件から,この化石資源価格の上昇は,世界中で,同時に,同レベルで起こらなくてはならない.このように新体制は世界中で化石資源の価格を上昇させる能力をもつ.
(iii) 化石資源の価格上昇のみによるGHG排出量削減は,価格上昇があまりにも大きくなり,費用効率性の要件を満たさない.日本では国内炭素税において税収還流を行った場合,炭素税のみの10倍の効果があるという報告もあり,化石資源の価格上昇は,省エネルギーや代替エネルギー供給への補助と合わせて行われることになる.新体制は代替エネルギーへの補助を行う能力をもつ.
(iv) 費用効率性の要求からは制度執行費用も最小化しなくてはならず,最低限の組織と費用で運営できる体制がつくられている.
(v) IPCC地球温暖化第三次レポート第三作業部会報告によると,京都議定書実施の石油輸出地域/国におけるコストは石油による収入の10%を超えるという予測が多くのモデルで出されている.GHG排出量50%削減の際の影響ははるかに大きいと思われ,何らかの代償を得ることなくこれらの国々が公平であると感じるとは考えられない.従って化石資源保有国は化石資源の販売が減少したことの見返りを,例えば化石資源販売に変わる新しい産業,あるいは長期にわたる損害賠償などの形で入手していると考えられる.
(vi) 持続可能性の要請より,発展途上国は,化石資源に依存した経済成長の代わりに,代替エネルギーを用いた経済成長を達成していると考えられる.この過程において,化石資源価格の上昇,GHG排出に関する強い規制やペナルティー,あるいは代替エネルギーへのインセンティブが必要だが,発展途上国が不公平さを感じないために,エネルギー転換への国際的な補助が行われたと考えられる.
(vii) 先進国のみに強いGHG排出規制が行われ,発展途上国に先進国の産業が移転する(炭素リーケージ)ことになれば,それは排出削減目標達成を難しくするのみならず,先進国の不公平感を高めることになる.そこで,世界各国間におけるルール格差は最小になっていると考えられる.
(viii) 世界共通の価格や,税,ペナルティーを適用した場合,発展途上国が過度な負担であると反発する可能性がある.国際共通ルールをあてはめることが適当でない分野での化石燃料使用(炊事,暖房用など)については別のルールが用いられ,発展途上国に補助が与えられている.
(ix) 先進国のエネルギー産業,エネルギー集約型産業には産業調整政策が必要である.衡平を図るために,先進国にも産業調整政策に必要な資金が供給されている.
(x) 公平性の確保のためには各国の「実施」と「遵守」が必要である.システム的なモニタリング,報告,検証が,できるだけ手間をかけずできる体制でなくてはならない.世界共通の経済システムを用い,義務の履行という問題を残さない体制であれば,なお良い.
(xi) 2050年までには,世界各地で国民の生存が脅かされるような,強烈な気候異変が生じると考えられる.このような事態に,当事国だけに対処を要求することは公平でない.人間の生存と最低限の生活に対する保障ができる体制でなくてはならない.
すなわち,2050年における世界のGHG排出量管理体制は,化石資源を(i)~(xi)に示す原則の下で管理するシステムとなる.この遡及的シナリオ分析から生まれた新たな原則を表3にまとめる.
表3(小)
基金の創出を原則とした理由は,資金の潤沢な供給により,発展途上国や資源保有国の要請である公平性を満たし,さらに,新エネルギー産業を興すという考え方を取り入れたからである.
京都議定書のように国際排出権取引を中心に据えた制度であれば,前述したように初期配分の決定が公平性を調整するための手段であるため,GHG排出削減目標が厳しくなるにつれ,初期配分に関する合意がさらに困難となる.公平性の意味も厳密に定義をする必要が生じ,これまで,一人当たり排出量を収束させる考え方(Triptychアプローチ,制限と収束等),強度目標(GDPあたりの排出量目標),あるいは歴史的な排出量を加味して負荷を決める“ブラジルの提案”など,様々な提案がなされ,統一された考え方はない.しかしながら,各国が具体的に負う損失の填補,あるいは新エネルギーへの転換に対する資金供与によって公平性の要求を満たすと考えた場合,公平性の世界一律的な定義を議論する必要はなく,当事国が損失補填されていると判断すれば良いことになる.
3.7 原則から導かれるシステムの機能
排出権取引を中心とするシステムで表3に示す原則を満たし,資金を提供することは,不可能である.また,国際炭素税を中心としたシステムでも,国境を越えて資金を供給することは難しい.ここで,資金を生み出すシステムとして,化石資源の専売制を導入する必要性が生まれてくる.この化石資源の専売を行う機構を「世界化石資源管理機構」と呼ぶことにし,この機構は,表4に示す最低限の機能を果たす必要がある.
表4(小)
①に関して,機構は企業買収,あるいは企業買収を行わず,各企業と化石資源の採掘量全量買い入れの契約をすることになると考えられる.企業取得の範囲は,機構と各国の交渉になる.機構はより少ない投資規模を,逆に資源保有国は安定的な収入のためにより幅広い施設,企業の購入を求めることになる.後者の場合,購入量や買い入れ価格の交渉を定期的に行うことになるが,価格の決定方法は今後の検討課題である.
②に関して,機構は,現在の市況と同程度の安い価格で供給される化石資源の量を,
近代化以前の生活のための必要量,主に暖房・炊事用途に限ると主張する.これに対し,発展途上国は,エネルギー転換を終えるまでの間に消費する化石資源について,先進国と同じコストを支払うことは経済的に不可能であると主張することになる.この両者の交渉は,エネルギー転換速度を加速する交渉に繫がり,さらに,機構は時限付きで発展途上国の主張を一部認めることになる.
③に関して,機構は,炭素排出に対する課税と同様に,化石資源の原価,あるいは
課税のない場合の市価に一定の上乗せをして価格を設定し,販売を行うことになる.化石資源の使用量に対するコントロールは短期的に価格で行うことはできない.これは近年の石油価格の上昇が使用量の減少に繫がっていないことからも明白である.しかしながら,代替エネルギーへの投資とともに,化石資源価格の上昇をもたらせば,中長期的にエネルギーシフトが行われると考えられる.化石資源価格は,初期段階において機構が必要な資金を得ることのできる価格に設定され,各国のエネルギー転換の進展を見ながら,最終的に価格コントロールのできる水準まで上昇させる.それ以降,もし潤沢な利益が生まれれば,その資金は地球温暖化による被害に対する人道的支援に用いられる.
④に関して機構は,各国政府に,資源保有国へ資源の対価及び人道的支援に対する支出を行なった後の残金を公平に還流する.先進国等が,機構からの資金をエネルギー転換等に使用しない場合,不利益を被るシステムが必要である.
また,世界化石資源管理機構の運営のために,世界各国の信頼を得ることができる意思決定機関が必要となる.意思決定機関の設計も今後の検討課題である.
3.8 システムの機能を前提とした外部条件の再定義
3.5において,シナリオの前提となる外部条件を第一次的に定義したが,遡及的シナリオ分析が世界化石資源管理機構の設立を導いたため,求められる外部条件について,再度,より具体的に検討する.
下記の①②③は,同機構が確実に利益を上げ,必要な資金を確保できるための条件である.
①現在よりもかなり高い化石資源価格が維持できなくてはならない.化石資源が,高付加価値製品である化学製品の原材料であること,あるいは航空業界など,現在の技術力では代替エネルギーが存在しない分野の需要のため,化石資源価格が上昇しても,機構の運営に必要な化石資源の需要は残存する.
②機構が事業を始めるための資金が供給される
世界銀行,特にその一部である国際復興開発銀行(IBRD)は,単一機関としては最大の開発資金の融資機関であり,中所得国等に融資・保証などのサービスを提供し,持続可能な開発を推進してきた.世界化石資源管理機構が事業開始のための資金融資を受けるには適切な機関であると考えられる.
各国はIBRDに対し支払いの約束を行う.この考え方はIBRDのこれまでの運営からヒントを得たものである.IBRDが市場からの資金調達と加盟国からの出資金によって運営されるなかで,各加盟国は,出資金のごく一部を実際に払い込み,残額はIBRDから請求された場合にのみ支払うというシステムがあり,世界化石資源管理機構にも,この方法を適用すべきである.
③化石資源保有国は長期間の分割による支払いを受け入れる
資源保有国が,化石資源の所有権そのものを機構に移転する場合,機構は資源保有国に対価を長期の分割で支払うことになる.これは,支払い能力の問題と市場に一挙に多量の資金を流さないためである.特に利率などが問題になると考えられるが,資源保有国が,機構と独占的な販売契約を結ぶ場合,この問題は起きない.
④代替エネルギーの存在
3.5で前提としたように,化石資源価格の上昇と本機構による資金供与などが契機となり,新エネルギー産業が創出され,化石資源エネルギーの供給量減少に対して,代替可能なことが絶対の前提条件となる.
⑤各国の管理機構に対する信頼と協力の確保
化石資源の価格上昇の影響を最終的に受ける対象は,各国の国民である.地球温暖化を止めるために,市民の一人ひとりが痛みを受け入れなくてはならないという世論の形成が必要である.さらに,化石資源に対する徹底的な管理の必要性に対する世界の共通認識と,本機構が人類共通益のために設立され,理性に基づき運営されることに対する信頼感が必要である.
3.9 シナリオの検証と影響分析
本稿においては字数の都合により本項を割愛する. 世界化石資源管理機構設立の前後の資金の流れのみを図示し,同機構の各国経済に与える経済的影響を示す.
図1(小)
図2(小)
4.世界化石資源管理機構と他のシステムの比較
国立環境研究所の「気候変動に対応するための将来体制の研究」で構築された,“炭素市場主導”シナリオ,“政府主導政策・措置”シナリオ,“技術楽観主義”シナリオのうち,そのままでは排出量削減に至らない可能性のある“技術楽観主義”を除く二つのシナリオと世界化石資源管理機構シナリオとを比較した結果を表5に示す.表5より,システムの合意に至るハードルは,世界化石資源管理機構シナリオが最も高く.合意に時間を要すると危惧される.しかしながら,一旦合意が成立すれば,このシステムは排出量を削減へ導く力が大きいことが明らかである.さらに,この“炭素市場主導”及び“政府主導政策・措置”以外の将来体制に関する提案と世界化石資源管理機構を比較した場合,いくつかの類似点を見出すことができる.
世界化石資源管理機構システムと,“一律の国際炭素税で,ある国際機関が炭素税の一部を徴収し,別の観点から同意された衡平性の基準に沿ってその再配分を行う補完的措置を行うシステム”間に類似性がある.しかしながら,炭素税は専売制のような価格上昇を作り出せる力がない.すなわち,専売制は,販売数量が減少した際にも,価格調整により資源保有国の収入や転換・適応への基金を確保できるが,税方式は,その際に十分な資金を作り出せない.また徴収金額や国際的な資金分配の柔軟性等の点でも世界化石資源管理機構が優れている.その上,一番肝心な世論を考えた場合,世界化石資源管理機構は,「税」という言葉に対するアレルギーを避けることができる.
また,世界化石資源管理機構が機構の資金配分の際に,各国から提出されたエネルギー転換や産業転換への投資リストを参考にするのならば,“Pledge and review”と類似した効果を,さらに,技術などの足並みが揃うならば“PAMs”の効果も発揮することになる.
世界化石資源管理機構は,エネルギー転換を終えた最終段階で価格アプローチの性格を有するが,それに至る過程では,技術やプロジェクトに対する投資を促進する効果が大きく現れると考えられる.この点で,“技術楽観主義”のような,他のなによりも技術開発が地球温暖化の緩和をもたらすという思想に近いところがある.
また,世界化石資源管理機構の準備段階で,京都議定書のような排出権取引システムを用いて,対策の空白期間を埋めることができる.
このように,世界化石資源管理機構は,既存の提案メリットをいくつも承継したシステムであり,システムの詳細を設計しながら,さらに良いシステムに練り上げていくことが可能である.
表5(中)
5. おわりに
本研究では,定量的な分析を行っておらず,今後,化石資源価格上昇の産業界に与える影響,化石資源需要の予測,エネルギー転換に必要な投資・費用の予測などを行い,制度の各段階でフィジビリティーを確認する必要がある.また,基金の負担方法,理事会の構成などを検討することも重要である.
これまでに,超国家機関による国際公共財の管理として公海深海底の資源開発と静止軌道上の衛星位置の配分の2実例しかない.この点で世界化石資源管理機構は,京都議定書によって現に成立した国別排出量割り当て制度より,ハードルが高い.しかしながら,他分野で実例があるので,取り扱う事業規模の巨大さに気後れすることなく,日本政府を含めた世界各国は,この提案を一つのモデルとし,化石資源専売制度の設計をスタートする時期である.